最終更新日 2026年10月28日 by eliyeliy

「この歯はもう抜くしかないですね」と言われて、頭が真っ白になったまま帰ってきた方もいると思います。
歯科衛生士の井上佳奈です。
抜歯をすすめられた歯の中には、別の治療で残せるものもあれば、抜いたほうが体のためになるものもあります。
どちらなのかを見きわめる方法がセカンドオピニオンです。
抜歯と言われる理由、残せる可能性がある歯の特徴、相談の受け方を一緒にチェックしましょう!

抜歯と言われる理由と「抜くしかない」の正体

歯周病・むし歯・歯の破折で8割以上を占めます

8020推進財団の「第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書」は、2018年の1週間に全国の歯科医院で抜かれた8,003本の歯について、抜いた理由を調べたものです。
いちばん多かったのは歯周病で37.1%、次がむし歯の29.2%、歯の破折が17.8%でした。
この3つを合わせると84.1%になります。

歯周病と破折の割合は35歳を過ぎたあたりから年齢とともに高くなっていて、前回の2005年の調査と比べると破折が増えています。
40代、50代で「抜歯」という言葉を初めて聞く方が多いのは、この数字ともつながっています。

神経をとった歯は割れやすいです

同じ報告書では、神経が残っている歯よりも、神経をとった歯のほうが破折で抜かれる割合がはっきり大きいと書かれています。
神経をとった歯は中に栄養が届かなくなり、木でいえば枯れ枝のような状態になるので、かむ力に負けて根が割れやすくなります。

歯科医院で働いていると、「前に神経をとった奥歯が、ある日ズキッとした」という相談はよくあります。
レントゲンを撮ってみると根にひびが入っていて、そこから抜歯の話になる、という流れです。

「抜いたほうがいい」と「抜くしかない」は同じではありません

抜歯の判断は、検査の結果だけでなく、その歯科医師の治療方針にも左右されます。
少しでも残せる可能性があるなら残す、という先生もいれば、数年後に悪くなって隣の歯まで傷めるくらいなら早めに抜いてインプラントや入れ歯に備える、という先生もいます。
どちらも患者さんのためを思った判断です。

ただ、医院によって使える設備や得意な治療が違うのも事実です。
「この医院では残せない」が「どこでも残せない」とは限らないので、迷ったら別の歯科医師の意見を聞いてみる価値があります。

セカンドオピニオンで「残せる」可能性がある歯

抜歯の理由ごとに検討される治療があります

抜歯と言われた理由がわかると、相談先も選びやすくなります。
代表的なものを表にまとめました。
どれも歯の状態によって向き不向きがあり、受けられる医院も限られるので、「こういう選択肢があるかどうか聞いてみる」ための目安として見てください。

抜歯と言われた理由検討される治療の例相談先の例
歯周病で骨が溶けている歯周組織再生療法歯周病専門医がいる医院、大学病院
根の先の膿が治らない根管治療のやり直し、歯根端切除術、意図的再植根管治療を専門にしている医院
むし歯が歯ぐきより深い矯正で歯を引き出す治療、歯ぐきの形を整える手術矯正や歯周外科に対応している医院
根にひびが入っている割れた根を接着する治療接着治療を行っている医院(数は少なめ)

歯根端切除術は、根の先の病巣を歯ぐき側から取り除く手術です。
意図的再植は、歯をいったん抜いて口の外で根の先を処置し、元の場所に戻す方法です。

歯周病の歯は「骨の溶け方」がカギです

日本歯周病学会の「歯周病の治療方法は?」によると、失った骨を取り戻す再生療法が向いているのは、主に中等度の歯周病で、骨がカップのような形にえぐれている場合です。
条件が合えば、失った骨の9割から半分程度の回復が期待できると説明されています。

保険で受けられる方法もあります。
2008年からGTR法という方法の一部が、2016年からは歯周組織の再生用に開発された薬を使う方法が保険の対象になりました。
それ以外の方法は自費です。

骨が歯の根の先まで全体的に溶けている場合は、再生療法の対象になりにくくなります。
「どのくらい、どんな形で骨がなくなっているか」を聞いておくと、相談先で話がスムーズに進みます。

根の病気や割れた歯は、見えるかどうかで変わります

根の中はとても細くて複雑なので、肉眼では見えにくい部分が残ります。
歯科用の顕微鏡(マイクロスコープ)や歯科用CTがある医院では、根の形やひびの位置を細かく確かめたうえで治療を考えることができます。

割れた根を接着する治療は、保存できるケースがある一方で、長期の経過についての報告はまだ多くありません。
「残せたけれど数年後に結局抜くことになった」という可能性も含めて、説明を受けてから決めてくださいね。

それでも「抜いたほうがいい歯」もあります

残すことで失うものがあります

日本歯周病学会の同じページには、骨の破壊が大きい歯を無理に残すと、隣の歯に悪い影響が出たり、将来インプラントや入れ歯にするときの治療が難しくなったりすることが書かれています。
まれに、顎の骨の炎症(骨髄炎)につながることもあるそうです。

歯を1本残すために、まわりの骨や隣の歯を犠牲にしてしまっては本末転倒です。
抜歯をすすめる先生は、その歯だけでなく、10年後のお口全体を見て判断していることが多いんです。

2人目にも同じことを言われたら、それも答えです

日本歯周病学会も、残せる可能性を確かめたいなら歯周病専門医に相談するのもよい、としながら、同じく抜歯が必要と言われる可能性は高いと添えています。
別の先生にも「抜いたほうがいい」と言われたなら、それは納得して次へ進むための材料になります。

「残せる」と言ってくれる医院が見つかるまで回り続けるのは、おすすめしません。
そのあいだに炎症が広がって、残せたはずの骨や隣の歯まで弱ってしまうことがあるからです。

セカンドオピニオンの受け方

今の先生に伝えて、紹介状と画像を用意します

セカンドオピニオンでいちばん大事なのは資料です。
東京科学大学病院の「歯科 セカンドオピニオン外来のご案内」では、主治医が書く診療情報提供書(紹介状)と、レントゲンなどの検査資料を持ってくることが条件になっています。
資料がない場合や、主治医の了承が得られていない場合は引き受けられない、とも書かれています。

今の先生には「抜歯の前に、ほかの先生の意見も聞いて納得したいので」とそのまま伝えて大丈夫です。
レントゲンや歯科用CTの画像、歯周ポケットの検査結果をもらえるか聞いてみてください。

費用は相談先によって大きく違います

同じ案内によると、東京科学大学病院の歯科セカンドオピニオン外来は保険がきかない自由診療で、税込44,000円、1回1時間までの完全予約制です。
新しい検査や治療は行わず、相談後の治療は元の先生が続けるのが原則です。

街の歯科医院では、新しい患者さんとして受診し、診察や検査を受けながら意見を聞く形になることもあります。
費用の扱いは医院ごとに違うので、予約の電話で「セカンドオピニオンで相談したい」と伝え、料金を確認しておくと安心です。

相談の前にメモしておきたいこと

限られた時間で聞き漏れがないように、次のことを紙やスマホにまとめておきましょう。

  • 最初の医院で言われた抜歯の理由(歯周病、むし歯、根のひびなど)
  • 痛み、腫れ、ぐらつきがいつからあるか
  • 残した場合にどんなリスクがあるか
  • 抜いた場合に、インプラント・ブリッジ・入れ歯のどれが選べるか
  • それぞれの費用と通院期間の目安

やってしまいがちなNG例

一方で、よかれと思ってやったことが遠回りになるケースもあります。

  • 今の医院に何も言わずに通うのをやめる
  • 画像や資料を持たずに、口頭の説明だけで相談に行く
  • 腫れや痛みが強いのに、相談先が見つかるまで我慢する
  • ネットの「絶対に抜かない」という言葉だけで医院を選ぶ

よくある質問

Q. 今の先生に言い出しにくいときは?

セカンドオピニオンは、患者さんが納得して治療を選ぶための仕組みです。
「先生を疑っているわけではなく、自分で納得して決めたいんです」と、目的をそのまま伝えるのがいちばん角が立ちません。
先生に直接言いにくければ、受付や歯科衛生士に声をかけてもらってもかまいませんよ。

Q. 痛みや腫れがあるときも、相談するまで待っていい?

強い痛みや腫れ、発熱があるときは、まず今の医院で応急の処置を受けてください。
膿を出したり、かみ合わせを調整したりするだけで落ち着くこともあります。
抜歯するかどうかは、症状が落ち着いてからゆっくり考えても遅くありません。

Q. 残せた歯を長持ちさせるには?

残せた歯は、治療をした時点がスタートです。
日本歯周病学会も、再生療法のあとは徹底したプラーク(歯垢)の除去と、定期的なメインテナンスを続けることがカギだとしています。

私自身、矯正治療をしていたころは装置のまわりにブラシが届かず、毎晩ため息をつきながら磨いていました。
そのとき助けられたのが、歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に当てて小さくシャカシャカ動かす磨き方と、すき間に合ったサイズの歯間ブラシです。
治療した歯ほど汚れがたまりやすいので、歯科医院と相談して決めた間隔で、専門のクリーニングに通い続けてくださいね。

まとめ

「抜くしかない」と言われた歯にも、再生療法や根の治療、割れた根の接着などで残せる可能性がある歯はあります。
その一方で、無理に残すと隣の歯や骨を傷めてしまう歯もあります。
どちらなのかは、資料をそろえて別の歯科医師に見てもらうことで、ぐっと判断しやすくなります。

今の先生に気持ちを伝えて紹介状と画像を用意し、聞きたいことをメモして相談に行く。
そのうえで出た答えなら、残すにしても抜くにしても、きっと納得して前に進めるはずです。

そして、どちらを選んでも、そのあとのお口を守るのは毎日のケアです。
続けられるケアこそ最強。
残った歯を、一緒に長く大切にしていきましょう!