最終更新日 2026年8月28日 by eliyeliy
在宅勤務が増えてから、冷たい飲み物がしみる、朝起きると顎が重い。
そんな変化に心当たりはありませんか。
歯科衛生士の井上佳奈です。
在宅で働く方のお口を見ていると、通勤していた頃とはトラブルの出方が違うと感じます。
きっかけの多くは、間食の回数と、画面に集中している間の食いしばりです。
この記事では、在宅勤務で起きやすい口のトラブルと、忙しい日でも続くケアをお伝えします。
一緒にチェックしていきましょう!
テレワークで歯のトラブルが増えるのはなぜ?
在宅勤務は、もう一時的な働き方ではなくなりました。
国土交通省が2026年3月に公表した令和7年度テレワーク人口実態調査によると、雇用型テレワーカーの割合は25.2%で、前年度から0.6ポイント増えています。
働く場所が変われば、食べ方も、しゃべる量も、姿勢も変わります。
口の中は、その変化をかなり正直に受け取ります。
キッチンが近いと、食べる回数が増える
在宅勤務でいちばん大きな落とし穴がこれです。
オフィスなら、席を立ってコンビニまで歩く手間がブレーキになっていました。
自宅だと、10歩でお菓子の袋に手が届きます。
クロス・マーケティングが2020年5月に1,444人へ行った調査でも、在宅期間中に間食が増えたと答えた人は約半数でした。
やっかいなのは、量より回数のほうです。
食べ物が口に入るたびに細菌が糖を分解して酸を出し、歯の表面からミネラルが溶け出します。
その酸を中和して、溶けたミネラルを歯に戻してくれるのが唾液です。
厚生労働省のe-ヘルスネット「歯・口の機能」でも、唾液中のカルシウムイオンやリン酸イオンが再石灰化を促すと説明されています。
つまり、1時間おきにつまんでいると、唾液が修復に回る時間がなくなるわけです。
板チョコを一度に食べる人より、1粒ずつ6回に分けて食べる人のほうが、むし歯のリスクは高くなります。
量を減らすより先に、回数を数えてみてください。
画面に集中している間、上下の歯がくっついている
名古屋のものづくり企業でセミナーをしたとき、参加者の方に「今、上と下の歯は離れていましたか?」と聞いてみました。
半数以上の方が、ハッとした顔で首を振りました。
モニターを見つめて資料を作っている時間、多くの人の歯は軽く触れ合ったままになっています。
在宅勤務でこの癖が強まった方を、ここ数年で本当にたくさん見てきました。
会話が減ると、唾液の量も減る
出社していた頃は、雑談、電話、立ち話と、口を動かす場面がありました。
在宅だとチャットで用件が済んでしまい、半日ひとことも話さない日があります。
口をあまり動かさない時間が続けば唾液腺への刺激も減り、口の中は乾きやすくなります。
e-ヘルスネットの「歯周病の予防と治療」でも、口腔乾燥は喫煙や糖尿病と並ぶ歯周病のリスク要因として挙げられています。
唾液には汚れを洗い流す働きに加えて、リゾチームやラクトフェリンなど細菌の活動を抑える成分も含まれます。
それが減った状態で一日を過ごすのは、口の中の守りを下げたまま働いているようなものです。
在宅ワーカーに多いお口のサイン
トラブルは、ある朝いきなり歯が痛くなる形ではやってきません。
たいていは、小さな違和感が数週間かけて居座ります。
在宅勤務中の方から相談が多いものを、背景と一緒に整理しました。
まずは今の状態をチェックしましょう
| こんなサインが出ていたら | 在宅勤務で考えられる背景 | まず試すこと |
|---|---|---|
| 冷たい飲み物がしみる | 食いしばりで歯の根元に負担がかかっている、間食が増えている | 日中の食いしばりを外す、間食の回数を決める |
| 朝起きたときに顎やこめかみが重い | 日中の歯の接触癖と、夜間の歯ぎしり | 日中の脱力を練習し、続くようなら歯科で相談 |
| 昼過ぎに口の中がネバつく | 会話が減って唾液が出ていない | 水をこまめに飲む、噛む回数を意識する |
| 歯みがきのときに歯ぐきから血が出る | 歯と歯の間の磨き残し | 夜のデンタルフロスを1回追加する |
| 詰め物が外れる、欠ける | 歯にかかる力の負担が大きい | 早めに歯科を受診する |
我慢せずに歯科へ相談したいサイン
痛みがなくても、放置しないでほしい状態があります。
歯ぐきが腫れてブヨブヨしている、噛むと特定の歯だけ痛む、口を大きく開けると顎で音が鳴って開きにくい。
このあたりが出ているときは、セルフケアで様子を見る段階を過ぎています。
とくに詰め物や被せ物が短期間に2回以上外れる場合は、噛む力のかかり方そのものに原因があるケースが多いです。
接着し直すだけでは、また同じところが外れます。
在宅だからこそ気づきにくい変化
人に会う機会が減ると、口臭や歯の着色に気づくきっかけも減ります。
私自身、リモート中心の週は鏡の前に立つ時間が短くなり、歯ぐきの色の変化を見落としかけました。
週に一度でいいので、明るい場所で口を開けて、歯ぐきの色と歯の間をのぞいてみてください。
健康な歯ぐきは薄いピンク色で、引き締まっています。
無意識の食いしばり「TCH」を止める
在宅勤務で増えたトラブルの、かなりの部分に関わっているのがTCHです。
歯列接触癖と呼ばれる、上下の歯を軽く触れさせ続けてしまう癖のことを指します。
歯ぎしりのような強い力ではないため、本人にほとんど自覚がありません。
上下の歯が触れていい時間は1日10〜12分
日本歯科医師会のサイト「お悩み相談!教えて先生」では、通常、上下の歯が接触しているのは1日のうち10〜12分程度と紹介されています。
食事と会話を全部合わせても、それくらいです。
残りの時間は、上下の歯のあいだにわずかなすき間があるのが自然な状態になります。
同じページでは、顎関節症の患者さんの6割にTCHの傾向があるという調査結果も示されています。
強く噛みしめていなくても、触れ続けているだけで顎の筋肉は休めません。
知覚過敏や詰め物の破損、歯周病の悪化にもつながっていきます。
30秒でできるセルフチェック
いま、この文章を読んでいる姿勢のまま確認してみてください。
- 上下の歯は触れていますか、離れていますか
- 唇を閉じたまま、上下の歯を離せますか
- 肩が耳に近づいていませんか
- 息を止めて画面を見ていませんでしたか
歯が触れていた方は、TCHの可能性があります。
落ち込まなくて大丈夫です。
私が指導した方の中でも、最初のチェックで「離れていた」と答える方は本当に少数でした。
付箋とデスク環境で癖を外す
日本歯科医師会も紹介している方法が、視界に入る場所へ付箋を貼ることです。
モニターの縁に「歯、離れてる?」と書いた付箋を1枚貼ります。
目に入るたびに、ふーっと息を吐いて肩の力を抜き、上下の歯を離してください。
歯を離そうと意識するより、息を吐くほうが体はゆるみます。
デスクの高さも見直す価値があります。
ノートパソコンを低い位置に置いてうつむいた姿勢が続くと、顎が引けて歯が当たりやすくなります。
画面の上端が目の高さにくるよう台で持ち上げるだけで、口元が楽になる方が多いです。
デスクの間食と飲み物を整える
食べる回数の話に戻ります。
ここは我慢比べにすると続かないので、仕組みで解決しましょう。
回数を決めれば、我慢しなくていい
私がおすすめしているのは、間食をやめることではなく、時間を決めることです。
たとえば15時の10分間だけと決めて、そこで好きなものを食べます。
だらだら食べを1回にまとめるだけで、口の中が酸性に傾く時間はぐっと短くなります。
デスクの上にお菓子を出しっぱなしにせず、別の部屋の棚にしまうのも効果的です。
デスクに置く飲み物を見直す
意外と見落とされがちなのが、手元のマグカップの中身です。
| デスクの定番 | 気をつけたい点 | おすすめの飲み方 |
|---|---|---|
| 加糖のカフェラテ、微糖の缶コーヒー | 少しずつ飲むと糖が口に残り続ける | 休憩時間に飲みきって、そのあと水をひと口 |
| スポーツドリンク、エナジードリンク | 糖分が多く、ちびちび飲みに向かない | 運動時以外は水や無糖のお茶に置き換える |
| ブラックコーヒー、無糖の紅茶 | 着色がつきやすく、口も乾きやすい | 合間に水を挟む |
| 水、麦茶 | 気にせず飲める | 手の届く定位置に置いて、こまめに |
甘い飲み物をやめる必要はありません。
ただ、3時間かけて少しずつ飲むのはやめてください。
飲みきってから水をひと口含むだけで、口の中の環境はずいぶん変わります。
食べたあとの1分でできること
歯みがきができない場面のほうが多いと思います。
そんなときは、水で軽くうがいをするか、水をひと口飲んで飲み込むだけでも構いません。
キシリトール入りのガムを噛んで唾液を出すのも、在宅なら気兼ねなくできます。
何もしないで次の会議に入るより、この1分がずっと効きます。
在宅だからできる口腔ケア習慣
ここからは実践編です。
在宅勤務には、オフィスではできなかった強みがあります。
自分の洗面所が、歩いて数歩のところにあることです。
昼休みの2分磨き
出社していた頃、昼休みに歯を磨いていた方はどれくらいいるでしょうか。
在宅なら、人目を気にせず洗面所で磨けます。
時間は2分で十分です。
歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に当てて、シャカシャカと小刻みに動かします。
1か所につき10往復くらい、力は毛先が広がらない程度にとどめてください。
奥歯の噛む面は、溝に沿ってクルクルと円を描くように当てます。
ゴシゴシ大きく動かすと、歯ぐきが下がって知覚過敏の原因になるので気をつけてくださいね。
夜はフッ化物入り歯みがき剤とフロスをセットで
夜の1回だけは、しっかり時間を取ってほしいです。
e-ヘルスネットの「フッ化物配合歯磨剤」によると、6歳以上から成人では1,400〜1,500ppmFの製品を、歯ブラシ全体に1.5〜2cm使うことが目安とされています。
みがいたあとは軽く吐き出す程度にして、うがいをするなら少量の水で1回だけ。
何度もゆすぐと、せっかくのフッ化物が流れてしまいます。
デンタルフロスは、e-ヘルスネットの「歯間部清掃」でも、歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間の清掃に有効だと紹介されています。
約40cmを切り取って両手の指に巻き、歯と歯の間へゆっくり入れていきます。
すき間が広いところは、歯間ブラシのほうが通しやすいです。
私は20代で歯列矯正をしていて、装置が入っている間はまともに磨けず、毎晩泣きたい気持ちでフロスを通していました。
あのとき身についた「夜だけは絶対にやる」という区切りが、今も続いています。
毎食後にフロスを通そうとして3日で挫折するより、夜1回を1年続けるほうがずっと効きます。
3〜6か月に一度、プロの目を入れる
セルフケアで落とせる汚れには限界があります。
厚生労働省が2025年6月に公表した令和6年歯科疾患実態調査では、過去1年間に歯科健診を受けた人の割合は63.8%でした。
同じ調査で、8020達成者は61.5%と推計されています。
定期的に診てもらっている人が増えるのに合わせて、歯を残せている人も増えているわけです。
在宅勤務の方には、平日の空いた時間に予約を取りやすいという強みもあります。
食いしばりの相談も、症状が軽いうちのほうが対応の幅が広がります。
まとめ
在宅勤務で歯のトラブルが増えるのは、意志が弱いからではありません。
食べる回数、しゃべる量、画面との距離。
生活が変わったぶんだけ、口の中の条件も変わっただけです。
今日からできることは、この3つに絞りました。
- モニターに「歯、離れてる?」と書いた付箋を1枚貼る
- 間食の時間を決めて、お菓子は手の届かない場所にしまう
- 夜のデンタルフロスを1回だけ習慣にする
全部やろうとしなくて大丈夫です。
続けられるケアこそ最強だと、私は本気で思っています。
まずは今日の夜、洗面所でフロスを1回。
それだけでも、あなたの歯は確実に守られます。







