最終更新日 2026年6月28日 by eliyeliy

こんにちは!
歯科衛生士・予防歯科インストラクターの井上佳奈です。

「また撮るの…」
歯医者に来るたびに、心の中でそうつぶやいた経験はありませんか?

私はこれまで12年間、歯科衛生士として多くの患者さんと向き合ってきましたが、レントゲン撮影への不安はほぼ全員が持っているといっても過言ではありません。
「放射線って体に悪いんじゃないの?」「妊娠中でも本当に大丈夫?」「子どもに何度も撮らせて平気なの?」——そんな質問を、外来でも企業セミナーでも、毎日のように受けます。

結論からお伝えします。
歯科レントゲンの放射線量は、日常生活で受ける自然放射線と比べても格段に少なく、適切な管理のもとで行われるかぎり健康上のリスクはほぼありません。

ただ「安全です」と言い切るだけでは、専門家失格ですよね。
この記事では、具体的な数値を使いながら「なぜ安全といえるのか」「それでもどんな点に注意すればいいのか」を、歯科衛生士の目線で丁寧に解説します。
読み終わったときに「なるほど、だから安心して撮れるんだ」と思ってもらえたら、それが一番うれしいです。

歯科レントゲンには3つの種類がある

まず前提として、歯科で撮影するレントゲンには大きく3種類あります。
「いつもと違う撮り方をした」と感じたことがある方もいると思うので、それぞれの特徴を整理しておきましょう。

デンタルレントゲン(口腔内法)

「小さいフィルムを口の中に入れて撮るやつ」といえば、ピンとくる方が多いかもしれません。
これをデンタルレントゲン、正式には口腔内法と呼びます。

特定の歯を細かく見るための撮影で、虫歯が歯の内部でどこまで進行しているか、歯の根っこの先に膿がたまっていないか、歯と歯の間に問題がないかを確認するときに使います。
撮影する範囲が狭いぶん、ピンポイントで詳細な情報が得られるのが強みです。

フィルムを口の中にくわえる感覚が苦手な方もいますが、最近はセンサーが薄くなったので、以前より楽になっているはずです。

パノラマレントゲン

「顎の周りをぐるっと機械が回るやつ」がパノラマレントゲンです。
上下すべての歯と顎の骨全体を一枚に収められるため、初診時の全体像の把握や、親知らずの状態確認、歯周病の進行度チェックなどに使われます。

デンタルと違って口の中にフィルムを入れなくていいので、「あのフィルムが嫌い」という方にはこちらのほうが楽かもしれません。

歯科用CT

歯科用CTは、歯や顎の骨を三次元(3D)で確認できる撮影方法です。
インプラントを入れる前の骨の厚みや神経の位置を確認したり、根管(歯の根の管)の複雑な形状を把握したりする場面で活躍します。

「CTってなんか大げさ…」と不安になる方もいますが、医科の全身CTと比べると撮影範囲が限られているため、被曝量はずっと少ないです。
よほど複雑な治療が必要なケースでないと、CTまで使うことは多くありません。

歯科レントゲンの放射線量はどのくらい?

ここが一番気になるところですよね。
具体的な数字で確認していきましょう。

種類別の被曝量を比べてみると

撮影方法1回あたりの被曝量
デンタル(口腔内法)約0.005〜0.01mSv
パノラマ約0.01〜0.04mSv
歯科用CT約0.1〜0.2mSv

単位は「ミリシーベルト(mSv)」です。
この数字だけ見ても「多いのか少ないのかわからない」という方がほとんどだと思うので、次にもっとわかりやすく比べてみます。

日常生活の放射線量と比べてみると

実は私たちは普段から、大地・宇宙・食べ物などから自然放射線を受け続けています。
世界平均で見ると、1年間に受ける自然放射線の量は約2.4mSvとされています。

比較対象放射線量
1年間の自然放射線(世界平均)約2.4mSv
東京〜ニューヨーク 往復フライト約0.19mSv
胃のX線検査(バリウム)約0.6mSv
胸部X線検査約0.1mSv
デンタルレントゲン1枚約0.005〜0.01mSv
パノラマレントゲン1枚約0.01〜0.04mSv

表を見るとわかるように、デンタルレントゲン1枚の被曝量は、年間の自然放射線の約200〜400分の1以下です。
パノラマでも60〜200分の1程度。
飛行機で海外旅行をするほうが、ずっと多くの放射線を受けることになります。

環境省の放射線に関する資料でも、私たちが日常的に受ける自然放射線の基準値が示されており、歯科レントゲンの被曝量がいかに日常の範囲内かがわかります。

もう少し噛み砕くと——デンタルレントゲンを1枚撮ることは、晴れた日に外を1〜2時間散歩したときに受ける自然放射線とほぼ同等です。
それで「危険だ」と感じる方はほとんどいないですよね。

デジタルレントゲンで被曝量はさらに減った

近年、多くの歯科医院がデジタルレントゲンに切り替えています。
デジタル化によって、従来のアナログフィルムに比べて被曝量を5分の1〜10分の1程度に抑えられるようになりました。
画質も向上して、より正確な診断ができるようになっています。

私が働く愛知の歯科医院でも、10年ほど前にデジタルに移行しました。
「前より短時間で終わるな」と気づいた方もいたかもしれませんが、それはX線の照射時間が大幅に短縮されたからです。

「デジタルレントゲンですか?」と確認するのは、患者さんの当然の権利です。
気になる方は撮影前に聞いてみてください。

妊娠中のレントゲン撮影は安全?

「妊娠中なんですが、レントゲンは撮っても大丈夫ですか?」
これは外来で毎月のように受ける質問です。
歯科衛生士として正直にお答えします。

胎児への影響について

結論:妊娠中でも、適切な管理のもとで行う歯科レントゲンは安全です。

胎児に影響を与えるとされる放射線量は、50〜100mGy以上といわれています。
(mGy=ミリグレイ。放射線が組織に与えるエネルギーの単位で、おおむねmSvと同等に考えてOKです)
日本産科婦人科学会も「50mGy以下なら心配ない」というスタンスをとっています。

一方、歯科のデンタルレントゲン1枚が胎児に与える被曝量は約0.0008mGy。
50mGyという基準値に達するには、デンタルレントゲンを6万枚以上撮る必要があります。
「1日1枚撮り続けても164年分」——これが現実の数値です。

また、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告によると、妊婦が妊娠期間全体を通じて受けてよい放射線量の目安は10mSv。
歯科レントゲン(1〜20μSv=0.001〜0.02mSv)はその数百分の一以下です。

日本歯科医師会の歯科放射線に関するページでも、現代の歯科レントゲンは照射線量が大幅に低下しており、防護具の使用と合わせることで安全に撮影できることが説明されています。

ただし「安全だから毎回撮ります!」というわけにはいきません。
妊娠中は必要性を歯科医師がしっかり判断した上で、本当に必要な場合のみ撮影します。
撮影の前に「妊娠中です」と必ず伝えてください。

防護エプロンで被曝をさらに減らせる

歯科でレントゲンを撮るとき、必ず鉛入りの防護エプロンを着用しますよね。
あれには、X線が甲状腺・生殖器官・腹部へ届くのを防ぐ効果があります。
防護エプロンでX線を95%以上遮断できるとのデータもあるほどです。

妊婦さんの場合、お腹をしっかり覆う形でエプロンを使うので、胎児への線量はさらに低くなります。
撮影口が口元で、お腹から距離があることも安心材料のひとつです。

実際のところ、歯の治療中に感染症が進行したり、激しい歯痛が続いたりするほうが、ストレスや投薬の影響で赤ちゃんに悪影響を与えるリスクがあります。
「レントゲンを避けるために治療を我慢する」のは、むしろ逆効果になることもある——これが歯科衛生士としての正直な意見です。

子どもへの影響は?

「子どもは体が小さいし、大人より影響を受けやすいんじゃないか」
そう心配するお父さんお母さんが多いのも、よく理解できます。

子どもの放射線感受性について

確かに、一般的に子どもは大人より細胞分裂が活発なため、放射線感受性がやや高いといわれます。
ただしそれは、大量の放射線を受けた場合の話です。
歯科レントゲン程度の微量な放射線では、国際的な研究においても子どもへの明確な健康影響は確認されていません。

ここで大切なのは「リスクとベネフィットのバランス」です。
子どもの歯の問題は、大人以上に進行が早い。
乳歯の虫歯を放置すると永久歯の生え方に影響したり、噛み合わせが歪んだりすることがあります。
レントゲンなしで見逃してしまうリスクのほうが、撮影による被曝リスクよりはるかに大きいのです。

子どもにこそ定期撮影が必要な理由

私が企業セミナーで子育て世代のお母さんたちにお伝えしているのは、「子どもの歯こそ、定期的にレントゲンで確認してほしい」ということです。

乳歯は永久歯よりもエナメル質が薄く、虫歯が急速に進行します。
歯と歯の間の虫歯は、目で見ても鏡で映しても絶対に気づけません。
「黒くなってないし大丈夫」と思っていたら、内部がすでにかなり進んでいた——というケースは外来でも珍しくありません。

もうひとつ大切なのが、永久歯の生え替わり状況の確認です。
永久歯がちゃんと下で育っているか、異所萌出(おかしな方向に生えてくること)の兆候はないか——これもレントゲンなしには確認できません。

「撮影は半年〜1年に1回程度」と伝えると、ほとんどの方に「え、そんなに少なくていいの?」と驚かれます。
むやみに何度も撮るわけではないので、安心してください。

なぜ毎回レントゲンを撮るの?

「先生に断る勇気がなくて、毎回撮られてる」という声も聞きます。
撮影の必要性を理解した上で判断できるように、詳しく説明させてください。

レントゲンで見える・わかること

歯科で行うレントゲン撮影には、目視では絶対に確認できない情報が詰まっています。

  • 歯と歯の間に隠れた虫歯
  • 歯の根の先(根尖)の状態(炎症・膿など)
  • 歯を支える骨(歯槽骨)の量と形
  • 神経管や血管の位置
  • 親知らずの埋伏状況(骨の中に埋まっている状態)
  • 根管の形状(根管治療前の確認)
  • インプラント埋入前の骨の厚みと高さ

「痛みがないから大丈夫」とは言い切れないのが口の中の怖さです。
虫歯も歯周病も、かなり進行するまで自覚症状が出ないことが多い。
私が歯科衛生士として12年間で何度も目にしてきた現実です。

撮影しないとどうなるか

では、レントゲンなしで診療したらどうなるか。
歯科医師は「見えている範囲」だけで判断することになります。
歯の内部、根の先、骨の状態——これらは視診・触診だけでは確認できません。

誤診や見落としが増えるリスクが高まるのはもちろん、治療の精度も落ちます。
根管治療で根の先まで薬が届いているか確認できなかったり、インプラントの位置が神経に近すぎるリスクを事前に察知できなかったり——そういったトラブルにつながりかねません。

「患者さんへの配慮のため、撮影を最小限にしましょう」という考え方は、実は患者さんにとってリスクになり得ます。

撮影頻度の目安

撮影頻度は、患者さんの状態と目的によって変わります。
目安として参考にしてください。

目的撮影の頻度目安
定期健診(虫歯・歯周病チェック)6ヶ月〜1年に1回程度
初診時の全体把握初回にパノラマ1枚
根管治療中の経過確認治療の各ステップで数枚
インプラント前の精密検査CT1〜2回
矯正治療開始前の診断パノラマ+頭部X線規格写真

「定期健診のたびに毎回撮るのはおかしい」という意見をSNSで見かけることもあります。
でも実際は、6ヶ月おきに1枚(しかもデジタル)であれば、被曝量は年間0.02mSv以下。
年間の自然放射線2.4mSvのわずか1%未満です。

医学的な理由なく闇雲に撮影することはありませんし、「なぜ今日は撮影が必要なのか」は遠慮なく歯科医師に確認してOKです。

放射線への不安を感じたら、正直に伝えて

最後に、私からひとつお願いがあります。
「レントゲンは撮りたくない」「少し怖い」という気持ちは、我慢しないで伝えてほしいのです。

治療の必要性を説明しないまま「はい、じゃあ撮りますね」と進める歯科医師・歯科衛生士のほうが問題だと思っています。

  • 「今日はなぜ撮るの?」
  • 「デジタルレントゲンですか?」
  • 「防護エプロンを着けてください」

これは患者さんの当然の権利として聞いていい質問ばかりです。

私自身、矯正治療を受けていた時期に「なかなか聞けない」という経験をしています。
装置が複雑で歯磨きがとても難しかった時期でもあり、なにかと歯科医院に対して緊張感がありました。
患者の立場になってみて、「わからないことを遠慮なく聞ける空気感」がいかに大切かを実感しました。

聞きやすい歯科医院を選ぶのも、セルフケアのひとつだと思っています。

まとめ

歯科レントゲンの放射線量と安全性について、ポイントを整理します。

  • デンタルレントゲン1枚の被曝量は約0.005〜0.01mSvで、年間の自然放射線量の200〜400分の1以下
  • パノラマは約0.01〜0.04mSv、歯科用CTは約0.1〜0.2mSv
  • デジタルレントゲンにより、被曝量はさらに1/5〜1/10に低減
  • 妊娠中でも、防護エプロンを着用し医師が必要と判断した場合は安全に撮影できる
  • 子どもも、リスクとベネフィットを考えると適切な頻度での撮影が必要
  • 「なぜ今日撮るのか」は遠慮なく聞いていい

「歯医者に行く回数を減らしてほしい」——これが私の率直な願いです。
そのためには、見えない部分の問題を早期に発見し、手遅れになる前に対処すること。
レントゲンはそのための大切なツールです。

無駄に怖がるより、正しく理解して活用してほしいと思います。
あなたのお口の健康を、一緒に守っていきましょう!