最終更新日 2026年6月28日 by eliyeliy

「花粉症の季節になると、奥歯がなんかズキズキする気がする…」

そんな経験、ありませんか?

歯科衛生士の井上佳奈です。
名古屋市内の歯科医院でブラッシング指導をしながら、企業向けに予防歯科セミナーも担当しています。

歯科でよく聞くお悩みのひとつに、「春になると奥歯が痛くなるんです」があります。
診てみても虫歯は見当たらない、歯周病でもない。
じゃあ、どうして痛むの?

実は、その奥歯の痛みが花粉症(アレルギー性鼻炎)や副鼻腔炎からきているケースがあるんです。

この記事では、花粉症と歯痛のつながりをメカニズムから丁寧に解説します。
「虫歯との見分け方」「受診すべき診療科」「花粉症シーズンの口腔ケア」についてもまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。

花粉症で奥歯が痛くなる理由

上顎洞と奥歯の意外な近さ

副鼻腔という言葉、聞いたことはありますか?

鼻の周りには4つの空洞(副鼻腔)があります。
その中で最大のものが「上顎洞(じょうがくどう)」で、頬骨の内側に位置しています。

上顎洞の位置をイメージしてみてください。
頬骨の内側のくぼみ、ちょうど鼻の横から目の下のあたりです。

さて、上の奥歯(第一・第二大臼歯)の根っこはどこにあるでしょうか。
上顎洞のすぐ下、驚くほど近い距離にあります。

人によっては、歯の根が上顎洞の底に接触していたり、根の先端が洞の中に突き出していたりすることすらあります。
研究によると、第二大臼歯の根の先端と上顎洞の底の距離は平均0.34〜0.46mm程度しかないとされています。
人によっては0mmで、骨を隔てずに根が洞内に突き出しているケースも10〜20%に上るといわれています。

この解剖学的な「近さ」が、花粉症と歯痛をつなぐ大きなポイントです。

花粉症→副鼻腔炎→歯痛のメカニズム

花粉症は、花粉という異物に対するアレルギー反応です。
鼻粘膜が腫れて、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが起きますよね。

この鼻粘膜の腫れが、副鼻腔炎のきっかけになります。

上顎洞は「自然口」という小さな孔を通じて鼻腔とつながっています。
花粉症で鼻粘膜が腫れると、この自然口が塞がれてしまいます。

自然口が塞がれると、上顎洞の中に分泌物が溜まります。
溜まれば溜まるほど、洞内の圧力が上がります。

そして、内圧が高まった上顎洞の底に接している奥歯の根が圧迫されます。
これが「虫歯がないのに奥歯が痛む」原因のひとつです。

さらに、三叉神経の上顎枝を介した「関連痛」も起きます。
炎症による神経への刺激が、脳に「奥歯が痛い」と誤認させてしまうイメージです。

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の患者さんのうち、約70%が歯の痛みを訴えるというデータもあります(参照:副鼻腔炎(蓄膿症)で歯が痛くなるのはいつまで続く? – 武田耳鼻咽喉科)。

「歯が痛い=虫歯」という思い込みを、一度外して考えてみる価値はあります。

副鼻腔炎による歯痛か、虫歯か?見分けるポイント

「自分の歯痛が副鼻腔炎のせいなのか、虫歯・歯周病なのか」は、症状の特徴がある程度の目安になります。
ただし、これだけで確定診断はできません。
「受診先を考えるための参考」として活用してください。

副鼻腔炎の歯痛に特徴的なサイン

以下のような症状があると、副鼻腔炎が原因の歯痛を疑う余地があります。

  • 片側の上奥歯が複数本、同時に痛む
  • 前かがみや下を向いたときに痛みが増す
  • 頬・目の下にかけて鈍い重さや圧痛がある
  • 鼻づまり・鼻水・頭痛などの鼻症状を同時に感じる
  • 歯が浮いたような違和感がある

「前かがみで痛みが増す」のは、上顎洞に溜まった分泌物が重力で奥歯の根の方へ移動し、圧がかかるためです。
「前かがみでズキッ」という体験談は、副鼻腔炎に悩む方からよく聞かれる特徴的な訴えです。

虫歯・歯周病との違いを比較

比較項目副鼻腔炎による歯痛虫歯・歯周病による歯痛
痛む歯の本数複数本(片側の上奥歯)基本的に1本
痛む歯の位置上奥歯が中心上下、どこでも
体勢との関係前かがみで悪化体勢は関係しない
鼻の症状鼻づまり・鼻水を伴う通常はない
痛みの性質鈍い・重い・圧迫感鋭い・ズキズキ・冷温刺激で悪化
季節との関係花粉症シーズンに悪化季節は関係しない

「複数の上奥歯が痛む」「前かがみで悪化する」「鼻症状も一緒に出ている」という3点が重なる場合は、歯科だけでなく耳鼻咽喉科への相談も視野に入れましょう。

ちなみに、以前に根管治療(神経を抜く処置)を受けた歯は、神経がないために痛みを感じにくいことがあります。
「歯の根の感染が副鼻腔炎を起こしていても本人が気づきにくい」という落とし穴があるので、注意が必要です。

ただし、副鼻腔炎でも1本だけに痛みが出るケースはあります。
また、虫歯と副鼻腔炎が同時に存在することもあります。
「これは副鼻腔炎のせいだから大丈夫」と自己判断するのは禁物です。

逆パターンも要注意!歯性上顎洞炎とは

ここまでは「副鼻腔炎→歯痛」という流れを見てきました。
実は逆に、「歯の感染症→副鼻腔炎」という経路もあります。
これを「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」と呼びます。

歯から副鼻腔炎が起きるメカニズム

歯性上顎洞炎とは、歯や歯周組織の感染が上顎洞へ波及して炎症を起こした状態です。

主な原因として挙げられるのは以下のケースです。

  • 虫歯が進行して根の先端に感染が起きる(根尖性歯周炎)
  • 歯周病の進行による細菌感染
  • 根管治療(神経を抜く治療)の不完全な充填
  • インプラント埋入時の上顎洞への影響
  • 抜歯後の合併症

近年の研究では、歯性上顎洞炎の原因として「根管治療やインプラントなど歯科処置に関連するケース」が全体の半数以上を占めるとも言われています。
上奥歯の処置を行う際に上顎洞との距離が非常に近いことが理由です。

上奥歯の根管治療やインプラントを受けたことがある方は、この点を知っておくと安心です。

歯性上顎洞炎のサインをチェック

歯性上顎洞炎は、通常の副鼻腔炎と異なる症状の特徴があります。

最大の特徴は「悪臭のある鼻水」です。
歯性上顎洞炎の鼻水は、独特の強い臭いを伴います。
これは、原因菌に嫌気性菌が多く含まれているためです。
「なんか変なにおいのする鼻水が出る」「鼻水じゃないような臭さ」と感じたら、要注意のサインです。

その他にも、以下のような症状が現れることがあります。

  • 片側の鼻づまりや膿性鼻水が続く
  • 同じ側の奥歯に違和感や痛みがある
  • 抗生剤を使っても改善しにくい
  • 後鼻漏(鼻水が喉に落ちる感覚)がある

歯性上顎洞炎は片側性が多く、研究では約92.6%が片側に症状が出るというデータがあります(参照:歯性上顎洞炎について – MedicalNote)。

歯性上顎洞炎は「よく知られているが、見落とされやすい疾患」と言われています。
歯科でパノラマX線を撮っても上顎洞の状態は把握しにくく、診断漏れが起きることがあります。
「歯科でも耳鼻科でも異常なし、でも症状が続く」という方は、CTを撮れる医療機関への相談を考えてみてください。

ただし、片側だからといって必ず歯性上顎洞炎というわけではありません。
確定診断は画像検査が必要です。
耳鼻咽喉科と歯科を連携して受診することが、正確な診断への近道です。

歯が痛いとき、どの科を受診すべき?

「歯科か、耳鼻咽喉科か、どっちに行けばいいの?」

これは本当によく聞かれます。
症状によってどちらを優先するかが変わるので、判断の目安をお伝えします。

耳鼻咽喉科か歯科か

耳鼻咽喉科を先に受診するのがおすすめのケースです。

  • 鼻づまり・鼻水・頭痛など鼻の症状が主体
  • 花粉症シーズンに奥歯の痛みが悪化した
  • 前かがみで歯の痛みが増す

歯科を先に受診するのがおすすめのケースです。

  • 歯の痛みが主体で、鼻症状はほとんどない
  • 以前に根管治療やインプラントを受けたことがある
  • 悪臭のある鼻水がある(歯性上顎洞炎の可能性)
  • 虫歯・歯周病の心当たりがある

迷ったときは、どちらかに行って必要なら紹介してもらう形でも大丈夫です。
「歯医者に行ったら耳鼻科も行ってみて、と言われた」というケースはよくあります。

確定診断にはCTが必要

副鼻腔炎と歯の問題を正確に見分けるには、CT検査が最も有効です。

通常の歯科X線(パノラマやデンタルX線)では、上顎洞の状態を詳細に把握しにくいことがあります。
歯科X線で「異常なし」と言われても、上顎洞内の問題が見落とされているケースがあるという研究もあります。

耳鼻咽喉科では副鼻腔のCTが撮りやすい環境が整っています。
「歯科でも耳鼻科でも原因がわからない」と感じたら、CTを撮れる医療機関への相談を検討してみましょう。

歯と副鼻腔の問題は密接に絡み合っているため、歯科と耳鼻咽喉科が連携して診ることが理想的です。

かかりつけ医に「副鼻腔炎の可能性も調べてほしい」と伝えることが、スムーズな診断につながります。
受診前に「いつから痛いか」「前かがみで悪化するか」「鼻の症状はあるか」を整理しておくと、医師への説明がしやすくなります。

花粉症シーズンの口腔ケアポイント

花粉症シーズンは副鼻腔炎になりやすいだけでなく、口腔環境も悪化しやすい季節です。
その理由と、今日からできるセルフケアをお伝えします。

副鼻腔炎を防ぐことが歯痛予防に

花粉症そのものをコントロールすることが、副鼻腔炎→歯痛のリスクを下げる第一歩です。

  • 外出時のマスク着用、帰宅後の洗顔・うがい・着替えで花粉を体内に入れない
  • 抗アレルギー薬を花粉飛散ピーク前から早めに使い始める
  • 市販の鼻洗浄器(生理食塩水)で鼻腔内の花粉・分泌物を洗い流す

鼻症状を早めに抑えることで、上顎洞への影響を最小限にできます。
アレルギーの治療はかかりつけの耳鼻咽喉科やアレルギー科へ相談を。

口呼吸対策と丁寧なブラッシング

花粉症で鼻が詰まると、口呼吸が増えます。
口呼吸は口腔内の乾燥を招き、虫歯・歯周病のリスクを高めます。

唾液は口の中の細菌を抑えたり、歯を再石灰化したりする大切な役割があります。
口が乾くと唾液が減り、細菌が増殖しやすくなります。

花粉症シーズン中に特に意識してほしいケアをまとめます。

ブラッシングのポイント

  • 朝と夜の2回は必ず磨く(できれば毎食後も)
  • 上奥歯(第一・第二大臼歯)は特に念入りに
  • ヘッドが小さめの歯ブラシを選ぶと奥まで届きやすい
  • 歯と歯ぐきの境目をやさしくなでるように磨く(力を入れすぎると歯ぐきが傷む)

歯間ケアのポイント

  • デンタルフロスや歯間ブラシを1日1回使う
  • 口が乾いていると感じたら、うがいをしてから使う
  • フロスで歯ぐきから出血したら歯周病のサインかもしれないので、歯科を受診

洗口液の活用

  • 殺菌効果のある洗口液(クロルヘキシジン配合など)は歯周病菌の増殖を抑える
  • 就寝前に使うと特に効果的
  • ただし毎日の長期使用で歯に着色が出ることがあるので、使い方は商品の説明書を確認

口が乾きやすいと感じる日は、水分を小まめに補給するだけでも助けになります。
冬場に比べて花粉症シーズンは意識が鼻の症状に向きがちなので、口のケアを忘れずに。

「続けられるケアこそ最強」というのがわたしのモットー。
完璧なケアより、毎日コツコツ続ける習慣が、長期的な口の健康を守ります。

まとめ

花粉症シーズンに奥歯が痛くなるのは、副鼻腔炎(上顎洞炎)が原因のことがあります。

上顎洞と上奥歯の根は解剖学的に非常に近い位置にあります。
花粉症で鼻粘膜が腫れる→上顎洞の出口(自然口)が塞がれる→洞内の内圧が上がる→奥歯の根が圧迫されるという流れで、虫歯がなくても歯が痛みます。

「片側の上奥歯が複数本同時に痛む」「前かがみで痛みが増す」「鼻症状も出ている」というケースは、虫歯ではなく副鼻腔炎の可能性を頭に置いておきましょう。

一方で、虫歯や歯周病が上顎洞に波及する「歯性上顎洞炎」も要注意です。
悪臭のある片側の鼻水が続く場合は、歯と副鼻腔の両方が絡んでいる可能性があります。

受診先に迷ったときは、鼻症状が強ければ耳鼻咽喉科、歯の痛みが主体なら歯科が窓口の目安です。
どちらかひとつでは判断がつかない場合は、両科で連携して診てもらうのが理想的です。

花粉症シーズンは口呼吸が増えて口腔環境が悪化しやすいので、丁寧なブラッシングと歯間ケアで虫歯・歯周病のリスクも下げておきましょう。

口と鼻の健康は、思っているよりずっとつながっています。
一緒にケアを続けていきましょう!